Story
Story Vol.19
Clocks by Yota Kakuda
デザイナー、角田陽太さんが手がけた「見やすい時計」への追求と挑戦。その、こだわり抜いた想いが綴られています。
「見やすさ」を性能としてとらえ、
それを実直に追求した時計。
[ 時計デザイン: 角田陽太]
誰しもがイメージできる、時刻が読み取りやすくて無駄のない、実直な時計の姿があります。しかし、そのような時計をデザインすることは決して容易ではありません。シンプルなものと思われがちな時計でも、気の遠くなるほどたくさんの要素が凝縮されているからです。それらの要素を、緻密に、的確に、そして立体的に構成することで、初めて「見やすい時計」が生まれるのです。
デザイナーの角田陽太が手がける時計のシリーズは、そんな時計のあり方を追求したものです。その多くが円形の木のフレームの中に12個の数字が並び、時針、分針、秒針が時刻を指し示す、ずっと昔から受け継がれてきたフォーマットです。この時計をデザインする過程には、それまで経験したことのない難しさがあったと、彼は言います。
たとえば文字盤のレイアウトは、右側の「1」「2」「3」などの数字(指標)と、左側の「10」「11」を比べると、左側のほうが2桁のため多くのスペースが必要で、バランスが崩れてしまいがちです。文字のサイズを全体的に小さくすればこの問題は解消されますが、時計から離れた時の可読性は低下してしまいます。12個の大きな数字を円環状に並べて、不自然な印象を与えないようにするには、相当の工夫と技術を要するのです。この時計をよく観察すると、それぞれの数字が幾何学的な配置からわずかにずらしてあることに気づくでしょう。全体のサイズ、数字の書体、3本の針の長さや形状、分を示す指標の長さと太さのメリハリなど、デザイナーがきめ細かく調整すべき要素は他にも無数にあります。
角田陽太は、0.1mmのレベルであらゆる検討を繰り返し、壁に掛けた時計の印象やバランスを何か月もかけて日々検証しながら、一連のシリーズを完成に導いていきました。このプロセスは彼のデザインした全ての時計にありました。これらの時計は、数字の有無や書体について違いがあるのは明らかですが、ディテールにもそれぞれ微妙な違いがそなわっています。
こうした「見やすい時計」のデザイン手法は、デザイナーひとりで完結するものではありません。「レムノス」がこれまで培ってきたノウハウや、古今東西のすぐれた時計の存在が、そのための糧になりました。コンピュータのなかった時代には、時計をデザインする技師たちは、10倍以上に拡大した図面によって仕様を決めていったといいます。それほどの実直さをもって創造性を発揮することが「時計をデザインする」という行為の本質なのです。
角田陽太による一連の時計は、連綿と続いてきた時計の歴史を尊重し、そこから普遍的なエッセンスを抽出して、現代のプロダクトとして結晶させたものです。人が暮らす空間で主張しすぎず、視界にあって心地よく、時刻という情報を自然に感じることができるその姿は、本来、時計が果たすべき機能と性能をきわめることで辿り着いた原型を思わせます。
角田 陽太
Yota Kakuda
1979年仙台生まれ。2003年渡英し安積伸&朋子やロス・ラブグローブの事務所で経験を積む。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクツ学科をロン・アラッドやサー・ケネス・グランジのもと、文化庁・新進芸術家海外留学制度の奨学生として修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年YOTA KAKUDA DESIGNを設立。国内外でデザインを発表している。2016年にはHUBLOT DESIGNPRIZEに日本人として初めてファイナリストに選出される。受賞歴にELLE DECORヤングジャパニーズデザインタレント、グッドデザイン賞、ドイツ・iFデザインアワードなど。