Story
Story Vol.8
モケイ的モノ作り CARVED【第3回】
常に背景に壁が存在する「壁掛け時計」。背景の壁の「質感・密度感」とバランスが取れる素材を選定すること、そしてその素材にふさわしい加工方法を用いて形にすること。そんなデザインテーマのもとに制作した「CARVED」の製造工程のお話です。
「Mac People」誌 2013年6月号
「モケイ的モノ作り4-3」掲載記事
[デザイン・文:寺田尚樹]
細部までこだわり抜いた
文字盤の切削と表面塗装
今回「CARVED」には、インテリアの装飾材として使われる「無機質系人造木材」を採用しました。
コンピューター制御のドリル刃で文字盤を切削加工します。そこで、ドリルの刃で切削しやすい書体を開発し、文字盤のデザインにしたのです。
ここで工夫したのは、ドリル刃で切削しているという工程がわかるよう、文字をわざと文字盤からはみ出させること。切削した断面を文字盤のエッジ部分から見せ、視覚的にわかるようにしたのです。
そのアイデアを「adobe Illustrator」でデータ化し、製作現場の工場にデータ入稿し、文字の大きさや彫り込む深さを調整しながら何度か試作を繰り返しました。
形状に満足できたところで表面仕上げについての検討に入ります。
通常、無機質系人造木材は素地のままでは使わず、塗装して仕上げます。なので、この素材を選定した時点でどんな塗装にするかというのは課題のひとつでした。
文字盤の形状を損なわないようにスプレーガンのノズルの大きさと形状をいろいろと試しました。ピカピカのツヤあり塗装、ツヤなし塗装、表面に小さなつぶつぶができる梨地塗装。
これらを試した結果、ツヤあり塗装はホコリなどが混入してしまうとどうしてもうまくいかず、量産には難しいと判断しました。
面白かったのは梨地塗装。表面のつぶつぶが細かな陰影を作り、素材の密度感が増したように感じました。そこで、つぶつぶを大きくして目を粗くしていくと、いい感じになってきました。
ちょうどローラーで壁にペンキを塗ったときにできるぶつぶつ感に似ていると感じたのです。
そこで、文字盤の塗装の質感をローラーでペンキを塗ったぶつぶつ感にできるだけ近づけることを目標にし、最終的な塗装の仕様を決めました。
どんな仕事でも同じだと思いますが、デザインという仕事において、試さなくてもわかることを、知識として持っておくことは必要です。
でもわかりきっていることでもまずは試してみて、そこから新しい発見の糸口を見つける柔軟性も重要だと思います。塗装の風合いというのは小さなことかもしれませんが、そこにこだわったからこそ作品のクオリティーを高められたと満足しています。
寺田 尚樹
Naoki Terada
建築家・デザイナー
94年 英国建築家協会建築学校(AAスクール)ディプロマコース修了。帰国後、建築やプロダクトのデザインのほか、ブランドのプロデュース、ディレクションを行う。2003年有限会社テラダデザイン一級建築士事務所設立。2011年「テラダモケイ」設立。2013年「寺田模型店」を東京・下北沢に開店。2014年 株式会社インターオフィス取締役、2018年~24年 株式会社インターオフィス代表取締役社長。武蔵野美術大学非常勤講師、グッドデザイン賞審査委員。
タカタレムノスでは「15.0%アイスクリームスプーン」のブランドディレクション、デザインを手がけている。
www.teradadesign.com
www.teradamokei.jp