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Story Vol.6

モケイ的モノ作り CARVED【第1回】

2010年、2014年と2度にわたってグッドデザイン賞を受賞したCARVEDについて、デザイナーの寺田尚樹さんにデザイン、製作への思いをお話しいただきました。普段聞くことのできない貴重なお話となっております。

「Mac People」誌 2013年4月号
「モケイ的モノ作り4-1」掲載記事 
[デザイン・文:寺田尚樹]

今回から、壁掛け時計「CARVED」のお話をします。僕は建築物を設計するかたわら、プロダクトもデザインしています。プロダクトデザインの場合のテーマは2つ。
ひとつは新しいライフスタイルを提案できるもの。もうひとつは、空間を構成するパーツとして空間に影響を与えられるもの。CARVEDは後者の事例です。

背景と素材が作り出す                                                        
僕なりの壁掛け時計                                                

どんなプロダクトでも、背景なしに単体で存在することはできません。背景が真っ白で何もないところにプロダクトだけがぽつんと浮いているような状況なんてありえませんよね。プロダクトがどんな場所に置かれているのか、その場所とどう関わるのかが重要だと考えています。
なので、プロダクトをデザインすることで、その空間のデザインにも関わりたいというのが本音です。



壁掛け時計のデザインは、それにうってつけなチャレンジだと思いました。建築家という立場から、配置するインテリアを選ぶように壁掛け時計のデザインを考えるのは自然なことですし、むしろ取組まなければならない課題だとも思いました。

デザインを決めるにあたって、まず最初に考えたのが背景の壁です。壁掛け時計のうしろには確実に壁があります。コンクリート、木、壁紙、塗装、金属パネルといったさまざまな種類がありますが、使う人の事情で決まるのでこちらからはコントロールできません。

そこで「質感」をテーマにすることにしました。コンクリートの重質感や木の自然な風合い、塗装の場合は刷毛目やペンキの粒子といったあらゆる質感の壁とバランスがとれるように素材を選び、密度感がともなった時計を作ることにしたのです。

そこで、通常はインテリアの装飾材として使われる「無機質系人造木材」を採用することにしました。石膏のような風合いでありながら非常に軽く、木材のように加工しやすいのが特徴です。
壁掛け時計は「軽い」ということが大事な要素で、重いと壁を痛めたり、時計が落下した際に重大な事故につながったりということがありえます。コスト面から考えると、加工しやすいことも重要です。

また、時計には12個の指標があり、長針と短針がぐるぐる円運動するというルールがあります。これから外れてしまうとストレスなく時間を把握することができません。
また、今回のお題は「新しい時計の読み方」を発明することではなく、「時計」という決められたルールのなかで新たな提案をすること。
思った以上に大変でしたが、グラフィックではなく質感をテーマにしたことが、アイデアの突破口になりました。

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Naoki Terada

建築家・デザイナー
94年 英国建築家協会建築学校(AAスクール)ディプロマコース修了。帰国後、建築やプロダクトのデザインのほか、ブランドのプロデュース、ディレクションを行う。2003年有限会社テラダデザイン一級建築士事務所設立。2011年「テラダモケイ」設立。2013年「寺田模型店」を東京・下北沢に開店。2014年 株式会社インターオフィス取締役、2018年~24年 株式会社インターオフィス代表取締役社長。武蔵野美術大学非常勤講師、グッドデザイン賞審査委員。
タカタレムノスでは「15.0%アイスクリームスプーン」のブランドディレクション、デザインを手がけている。
www.teradadesign.com
www.teradamokei.jp