Story
Story Vol.11
fun pun clock【開発ストーリー 01】
時計の読めない子が、読みたいと思う時計「ふんぷんくろっく」。モンテッソーリ教育の理念を取り入れた、ちょっぴりユーモラスな名前のこの時計は、商品化までに様々なエピソードがありました。土橋陽子さんが語る、全6回の長編ストーリー。
[デザイン・文:土橋 陽子]
時計の読めない子が、読みたいと思う時計
「fun pun clock」。
モンテッソーリ教育の理念を取り入れた、ちょっぴり
ユーモラスな名前のこの時計は、商品化までに様々な
エピソードがありました。
子育て真っ最中の母親が、どうしてレムノスさんから時計
を発売する事になったのか?!手に汗握る?!
開発ストーリーを何回かに分けてお届けします。
理想の時計探しの日々
開発の発端は、私が主宰するインテリアワークショップに「子どもが見やすい時計」を必死に探し歩いて見つからなかったという状況がありました。ムキになってインテリアショップやネットを探すには理由がありました。
インテリアワークショップに参加して下さったお子さんの、お母様をうっかり泣かせてしまった。ということがありました。毎年夏休みに開催するワークショップで、作業に夢中なお子さんを叱っているお母様に「普段から時間と結びつけて行動するようお声がけされていますか?」と、今思い返せば “えらそうな”質問を何の気なしにしました。途端にお母様はハラハラと涙をこぼされて、私はものすごく驚いた、ということがありました。
涙の真意は分らないのですが、同じ母親として察する部分がありました。
インテリアワークショップでは、オリジナルデザインの紙のシェードを組み立ててナイトライトを作ります。私自身が専業主婦時代に日がな一日娘と折り紙遊びをしていた時に手遊びから生まれた展開図に、お絵描きしたり切り込みを入れたりして“世界にひとつだけのもの”にしてから立体的に組み立て、電球キットを入れるとナイトライトになります。毎晩寝る時に自分で消すことができたら、すてきな日常の風景になるだろうという希望をこめています。
プログラムの最初に「大体組み立てに小さなお子さんは20分程度かかります」と申し上げます。すると付き添いの保護者の皆さんは「時計の長い針が“8”のところにきたらお絵描きはおしまいにして、組み立てようねー」ですとか、作業の途中に“4”(=20分)のあたりでお声がけされている様子が見うけられます。
でも、夢中になった子どもは時間なんか気にしていられません。自分の頭の中のイメージがカタチにできた時。またはひたすら殴り書きをして、それがある一定の運動量に達して自分で「おわり」と言う時が、組み立てを始めるタイミング。子どもの作業にかかる「時間」と、世の中の「時刻」を関連づけてあげることは、制作する時には無意味なのかもしれません。一方で保護者の皆さんには、ワークショップ会場からご自宅まで道のりや、お夕飯の準備等を考えたら「時刻」もある程度の範囲重要になってきます。
そこで、どうなるか?“7”あたりで、「あともう少しで “8”よ。」なんとなく会場もザワザワして、“12”がすぎた頃は「この世の終わり」的な雰囲気になったりもします。
わかります。
自分の子がいつまでも作業が終わらない、もしくはなにか考えていてなかなか手を動かさない…イライラしますよね。そのタイミングでぐずられたり、オムツが大変な事になったりすると泣きたくなります。そのタイミングで、「普段から時間と結びつけて行動するようお声がけされていますか?」と、真っ当なことを諭すように言われたら、本当に恥ずかしい気持ちで一杯になります。
・・・
でも、実は一番悪いのはプログラムを主宰しておきながら、「子どもも読みやすい時計」を会場に用意しておかなかった私です。
そこで、12進法と60進法を関連づけた時計を、気軽な気持ちで探し始めたのでした。
つづく。
土橋 陽子
Yoko Dobashi
株式会社イデーに5年間(’97~'02)所属。定番家具開発や、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。2012年より「Design life with kids Interior workshop」主宰。フリーランスデザイナー・インテリアライターとして、様々な企業や媒体と協働して独自の活動をしている。2017年にタカタレムノスにデザイン提供したfun pun clockがグッドデザイン賞受賞。Precious.jpにて「身長156センチのインテリア」連載中。