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Sustainability

Lemnos Sustainability 03

ものづくりの歴史を継承すること -長野県上伊那での時計枠作り-

1990年代、レムノスはプラスチックの射出成形で製造するデザインクロックを多く展開しておりました。しかし、プラスチックは比較的扱いやすい材料のため、多くの模倣品を作られ、大きな打撃を受けました。そこで、創業者の高田博は、簡単に真似できない製法を採用する決意をします。そして、2000年以降、木工を中心に天然素材を用いた時計製造に舵を切りました。

無垢の木材は呼吸をすると言われます。これは多孔質である木は、製材された後も少なからず水分を保持しており、湿度の変化などで収縮を繰り返します。そのため、無垢材を使った木製品は変形を起こし、特に時計のように木以外の部品を組み合わせた商品にとってこの変形は頭痛の種となります。しかし、その変形と根気強く向き合う工場との協業により、レムノスオリジナルの木製時計が生まれました。

レムノスはその商品のデザインに合わせて、ブナ、タモ、オークなど表情の異なる無垢材を使い分けています。木材はここ数年で供給量が大幅に減少し、ますます貴重なものとなっています。

レムノスの木枠は、全国各地の協力工場で作られています。その1つが、長野県上伊那郡にある有限会社湯澤製作所です。レムノスが木枠製造を委託したのは2000年代になってからですが、湯澤製作所では創業より一貫して時計枠を製造しています。今では時計は手軽に購入できる品となりましたが、昔は宝飾類と一緒に販売されるような高級品でした。湯澤製作所が作る時計枠は、そのような時代を思い起こさせるほど丁寧に作られています。

湯澤製作所の壁面には、今までに作られてきた時計が並んでいます。

供給量が年々減っている木材はとても貴重なものなので、極力無駄なく使うことが求められます。大きな時計を作る場合は、塊から削り出すのではなく、小さな材を組み合わせて使わなければなりません。しかし、木材は木目を見てもわかるように、1つとして同じものがなく、それぞれクセを持っています。故に、入荷の度に表情の異なる木材を組み合わせて1つの製品を作ることは、経験値だけでなく繊細さが求められます。綺麗に整理整頓された湯澤製作所の工場からはその繊細さを感じることができます。この繊細さは、表面の研磨や、端部の面取りなど、職人の力加減で出来が大きく変わる工程で、品質の差として現れます。

5枚の板を組み合わせて作るカッコー時計の枠体。商品:CUCU / LC10-16NT

加工風景。1つの加工を終え、次の工程へ移る前の部材も同じ向きにズレなく積み重ねられています。

 

湯澤製作所との協業当初から作り続けている時計。商品:RIKI ALARM CLOCK / WR09-15NT

湯澤製作所がある上伊那という地域は、自然豊かな場所ではありますが、時計のような機械を製造するようなイメージにはなかなか結び付きません。しかし、この上伊那には戦後発展した日本の時計作りのルーツがあります。

湯澤製作所社屋。上伊那は長野県南部に位置し、南アルプスと中央アルプス、2つのアルプスを望む風光明媚な土地です。

終戦間もない頃、地方産業育成という国策として各県に農村時計工業を興すため、農村子弟の教育機関として埼玉県春日部市に「農村時計技術講習所」が設立されました。受講者は長野県の農村出身者も多く、長野県には2つの時計メーカーが生まれ、その1つが第一期卒業生を中心として南信地区の伊那谷に設立された龍水社でした。龍水社は、養蚕・製糸に携わる上伊那蚕糸組合が経営母体となっており、時計工場は養蚕倉庫・蚕室を改装したものであったとのことです。

龍水社製振り子時計。(時計工房儀象堂所蔵)

文字盤中央部には、アルプスにそびえる山々を想起させるような龍水社のロゴが入っています。(時計工房儀象堂所蔵)

龍水社が出来たことにより、上伊那には時計部品を製造する工場が増えたそうです。しかし、2000年代に入り時計作りの基盤が海外へ移り、上伊那での時計作りの灯が消えかかります。そのような状況と、国内での木製時計の製造に舵を切るというタイミングが重なり、レムノスは上伊那の湯澤製作所との協業を始めます。

クラシカルなモチーフを採用した渡辺力氏監修のロングセラー。商品:八角の時計 / WR11-01

協業を始めた当初に開発した時計に「八角の時計」があります。この時計は、八角形という時計としては古くから親しまれたモチーフを採用しています。しかし、このクラシカルなモチーフの木枠を製造するのには、確かな技術が要求されます。リング状の枠体は、塊を機械で切削することで成形可能ですが、八角形は削り出した8つの辺材を組み合わせて丁寧に成形します。辺の数が増えれば増えるほど、組み合わせる際にずれる可能性が高くなり困難を極めます。創業当初より、カッコー時計や柱時計など複雑な構造を持つ時計の枠体を数多く製造してきた湯澤製作所の技術と経験がここに活きています。

湯澤製作所代表の湯澤社長。

協業を始めてから十数年が経ち、その間に湯澤製作所製の木枠を用いた様々な企画を商品化することが出来ました。

ものづくりには、昨日今日で始めることはできず、必ずその背景には先人達の努力の歴史があります。タカタレムノスは、湯澤製作所のようにものが貴重であった時代の丁寧なものづくりを継承する工場に敬意を払い、共にものづくりの歴史を継承していきたいと思っております。

 

取材協力

しもすわ今昔館おいでや

諏訪大社や諏訪湖で有名な長野県下諏訪町にある文化複合施設。施設内博物館の時計工房儀象堂は、時計の歴史や機構を学べる珍しい施設になっています。